ランナー膝の鍼灸治療

近年の健康ブームに伴って普段ランニングをされている方は少なくありません。ランニングは体の健康にはいいことですが、疲労の蓄積により膝へ大きな負担がかかっていることも忘れてはいけません。

①ランナー膝に対する鍼灸治療

当院のランナー膝に対する施術は、第一に膝付近のツボや腫れの出ている部分にはりやお灸の刺激をして炎症を抑える効果を促します。
炎症が治まったら第二段階としまして、血行を良くして筋肉や骨に栄養が行き渡るよう施します。
また必要であれば、はりを刺してそれに電気を流すことにより筋肉を動かして老廃物を排出させることや患部付近を刺激することで痛みを感じる閾値を上げて痛みを感じにくくする作用を促します。
ランナー膝では、腸脛靭帯もしくは大腿筋膜腸筋に筋緊張がみられる場合が多いのでその緊張を緩める目的の施術も施します。
東洋医学の診断方法に基づき全身の調整施術も行っていきます。ランナー膝は、全身性の疲れや気血の滞りが原因の場合もあるので膝だけの部分的な治療ではなく、全身を診て治療していきます。
また、ランナー膝の場合、オーバーユースや走り方に問題がある場合が多いのでそういった生活上の注意点などもご指導させていただきます。

場合によっては、さした鍼に電気を流す鍼通電療法も行っていきます。鍼通電療法では、鍼による鎮痛効果がより増すことが期待できます。

ランナー膝の鍼通電療法

 

 

・症例

40代 男性

ランニングが趣味で週末休みになると10キロほどランニングをしていた。
東京マラソンに出るためにランニング量を増やしていたところ5キロを走ったところで膝の痛みが出るようになってしまった。無理して走っていたところ日常生活の歩行時にも痛みが出るようになってしまった。
あと、1か月ほどで東京マラソンがあり、なんとかそれまでに痛みを軽減させて完走したいとのことで当院にご来院されました。

 

治療

まず痛みが強く出る部分に鍼を刺して電気を流す鍼通電治療で痛みを緩和させていきました。大腿部周囲の筋肉にも過緊張状態が診られましたのでそれらの部分に鍼やお灸の施術、ストレッチなどを加えながら筋肉の柔軟性を出していきました。

とりあえず2週間はランニングは控えていただき治療に専念してもらいました。日常生活での膝の痛みがなくなったので徐々にランニングを再開して距離を少しずつのばしていってもらいました。

東京マラソン前日に鍼灸治療を受けてもらい挑んでいただきました。

結果はメールにて無事痛みなく完走できたとの報告があり、とてもうれしく思います。

 

②ランナー膝の東洋医学的考え

東洋医学ではランナー膝は体の外から邪気を受けるため発症するものと中医学でいう「」と「」が何らかの原因で損傷して働きが弱まって発症するものと考えられています。特に骨を生産させる役割を持つ「腎精」は青壮年期には最も充実して維持され、中年頃から次第に衰え始めます。ランナー膝はオーバーユースや加齢などが原因の場合が多く、「腎精」との関係が深いと考えられます。そういった原因で膝関節付近の気血が滞り、それが痛みや関節可動域制限の原因となると考えられています。

体の外からの邪気として一番ランナー膝が発生しやすいのは、寒く風のあたる場所にいた時などに体に悪さをする「風寒の邪気」を受けた時です。次いで湿度の高い場所にいて「湿邪」を受けた時などです。

またランニングなどで長時間にわたり膝に負担がかかることで気血は滞りやすく、それが膝関節付近であった場合にランナー膝を発症する可能性が高くなります。

 

 

③ランナー膝とは?

ランナー膝とは、ランニングによって生じる膝関節痛の総称で、変形性膝関節症腸脛靭帯炎膝蓋軟骨軟化症などが原因となります。
変形性膝関節症とは、膝関節のクッションである軟骨の擦り減りや筋力低下、肥満、加齢などのきっかけで膝関節の機能が低下し、膝関節に炎症がおきたり、関節が変形したりして痛みが生じる疾患です。

高齢者で最も多い骨または関節疾患は、腰背部痛膝関節症です。近年の高齢者人口の増加に伴い、変形性膝関節症に代表される膝の変性疾患が急増しています。40歳未満では、ケガなどが原因で変形性膝関節症が女性よりも男性に多く発症しますが、40歳以降では体重の重い女性に多く発症します。

腸脛靭帯炎とは、ランニングなどによって膝関節に衝撃が加わって膝の曲げ伸ばしや捻るなどの動作によって、大腿骨外側の隆起に膝の外側の支えや片足でバランスを取る際に重要な役割をもつ腸脛靭帯が擦られて摩擦性の炎症が生じて痛みを発症する疾患です。特に長距離ランナーに好発しますが、ほかにバスケットボール・水泳・自転車などでも腸脛靭帯炎を発症します。

 

ランナー膝

 

ランナー膝の症状として
膝の痛み
膝の皿周囲の痛みや圧痛があり、特に運動時に痛みがあります。最初はランニングの最中に痛みがあり、やがて症状がひどくなると日常生活でも痛みを感じるようになります。腸脛骨靭帯は明らかに緊張が増して硬くなり腸脛靭帯に沿って痛みが放散します。

膝の腫れ
・ときに痛みと同時に膝周囲に腫れを生じる場合があります。

膝関節の運動制限
・膝が曲がらない・伸ばせないまたは膝に何か引っかかっている感じや歩くと膝が不安定感があります。

 

④ランナー膝の原因

ランナー膝の原因として考えられているのは、長時間のランニングによるオーバーユースやウォーミングアップ不足・休養不足・硬い路面での走行・下り坂での走行・靴が合わないなど様々です。

ⅰ)大腿四頭筋の筋力不足
大腿四頭筋の腱は膝蓋骨と連なっており、筋力不足は膝蓋骨の不安定を招いて摩擦による炎症が生じやすくなります。

ⅱ)足の小指側に体重がかかり過ぎる
足の小指側に体重がかかり過ぎると内股気味となり、すねの部分は内側にねじられ、膝蓋骨を内側に引っ張ります。一方、大腿四頭筋は膝蓋骨を外側に引っ張ることで相反する力が生まれ摩擦性の炎症が生じやすくなります。

ⅲ)構造的な異常
膝蓋骨の位置が正常よりも高すぎたり低すぎたりすることや大腿四頭筋やハムストリングが異常に硬い・アキレス腱が硬いなどの原因により摩擦の起きやすい位置に膝蓋骨があり炎症が生じやすくなります。

※大腿四頭筋
大腿四頭筋とは、その名の通り大腿直筋内側広筋中間広筋外側広筋の4つの筋肉から構成されています。膝痛や腰痛などを考える上でとても重要な筋肉です。大腿四頭筋は、腸骨棘や大腿骨から始まり膝蓋骨の上や脛骨につきます。膝蓋骨とは、いわゆる「膝の皿」の部分です。
大腿四頭筋は、筋疲労の影響が出やすい筋肉であり、動かさないと萎縮し硬直しやすい筋肉でもあります。
大腿四頭筋が筋疲労を起こしたり、筋力が低下してくると、「膝の皿」が不安定になってしまい動くことで摩擦を生み、炎症が起きてしまいます。
また高齢者などに多いですが、あまり歩行ができずに大腿四頭筋を使えないでいると、筋肉が委縮し弾力性がなくなってきます。すると、大腿四頭筋は短くなり「膝の皿」が下に押し付けられて可動性を失って痛みを生じやすくなります。膝痛にならないためには大腿四頭筋の筋力をつけること、ストレッチなどで柔軟性を保つことがとても重要となってくるのです。

大腿四頭筋ストレッチ

 

⑤ランナー膝を予防する

一度ランナー膝となり、膝に痛みを覚えてしまった場合にその時と同じようにランニングをしていると再発する率は高くなります。ランナー膝にかかってしまった理由が必ずあるわけです。その根本的原因を改善していかなければ解決に至りません。
また、まだランナー膝にかかったことのないランニングを良くされる方でもランナーの2,3割は一度は膝の痛みで悩んだことがあるという統計もあることからランナー膝にかからないように普段から注意してランニングを行うようにしましょう。

 

ランナー膝の原因として多いのが股関節や足首の硬さからくるものや大腿部や下腿の筋肉の柔軟性の低下が挙げられます。ランニングの際に足関節が過剰に内側に荷重がかかり、大腿部の外側への力が高まり腸脛靭帯への負担が増すことでランナー膝となってしまいます。

ランニング前と後にもしっかり下肢のストレッチ、股関節周りのストレッチを行うようにしましょう。また、筋肉は暖まることで柔軟性が増し、逆に冷えることで固まりやすくなります。ランニング開始前に下肢を冷やさずできるだけ温めた段階でランニングを開始することでランナー膝を防ぐことが出来ます。

その他、ランニングコースやランニングの距離も見直すことも重要です。上り坂や下り坂など傾斜のついたコースでは膝に多くの負担をかけてしまいます。膝を痛めて復帰される時期にはできるだけ平坦なコースを選んで走ることが無難です。

また、ランニングを始めたばかりの方が急にランニング距離を伸ばしたことでランナー膝になってしまうという場合も多く見られます。いきなり走行距離を伸ばすのではなく徐々に距離を伸ばすように心がけましょう。すると、筋力も徐々に増強されることで関節への負担が軽減されてランナー膝になりにくくなります。

 


Posted by 中目黒の鍼灸院 東京α鍼灸院|眼精疲労 at 17:31 / 院長コラム コメント&トラックバック(%)

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