アトピー性皮膚炎は、かつて幼少期に発症して大人になると治っていくと言われていましたが、今は大人になっても治らない場合や治っていてもストレスなどで急に発症する場合が増えています。また、20歳以下の10人に1人はアトピー性皮膚炎にかかっていると言われており、増えている病気の一つです。まず当院で受けられたアトピー性皮膚炎の患者さんの症例をご紹介させていただきます。
中学3年生 男子
生後3か月からアトピー性皮膚炎の症状が出る。幼少期~小学生までは、ほとんどアトピー性皮膚炎の症状が出ていなかったが、中学校に入学してから症状が再発。受験を控えている影響と思春期という難しい時期が重なり、ここ3カ月は症状が強く出ている。
症状がひどくなってきてから皮膚科を受診して、内服薬として抗アレルギー剤と外用薬としてステロイド剤を処方された。
ステロイド剤を使うと一時的に症状は軽快するものの、痒みはあまりおさまらないという状態。顔まわりや首・肩周り、ひじ関節あたりの湿疹は特に強く出ている。普段から乾燥肌で冬になり空気が乾燥してさらに受験のストレスで赤みが強く出る時もある。思春期独特の悩みもある。
症例②
30代女性
子供の頃からアトピー性皮膚炎持ちだったが、2~3年前に症状が強く出て、皮膚炎やかゆみ症状が出て入院するほどになった。一度症状は落ち着くも当院ご来院2か月ほど前から症状がまた強く出るようになった。病院では入院治療を勧められたが、本人が断ったため入院はしなかった。ステロイドの塗り薬に頼るのは後々の副作用が怖いということで別の治療法を探していたところ友人の紹介で当院にご来院されました。
首肩の炎症が特にひどく、夜眠ることができないことがあって日中の仕事や家事にも影響を与えていました。また、かゆい部分を書き壊して浸出液が出ることも多かったとのこと。
当院の治療
まずしっかりと時間をかけて問診をして皮膚の状態を見てから自律神経測定器で自律神経の状態を計測していきました。特にかゆみで睡眠が阻害されることがつらく、自律神経の状態も交感神経が過亢進の状態でした。
交感神経の活動を下げて副交感神経を上げる自律神経調整治療と並行して、東洋医学的な熱を瀉す施術も行っていきました。お灸も積極的に使用して特に『肩井』『曲池』『血海』『腎兪』『肝兪』の経穴には強い刺激を入れていきました。
治療経過
◇1回目◇
治療後、少し眠ることができた。痒みが多少治まり、首の炎症も少しよくなった
◇2回目◇
よく眠れる日と眠れない日がはっきりしてきた。首肩の症状が治まってきたが全身に少し似たような症状が出てきた
◇3回目◇
顔に炎症が出るようになり、目が腫れぼったく感じる
◇4回目◇
全身のかゆみは治まり、また首肩の炎症が強く出るようになった
◇5回目◇
首肩の炎症が強く出てしょうがなく、ステロイドの塗り薬をぬった
◇6回目◇
薬で首肩の炎症が治まって、今はもう塗っていない。睡眠をよくとれる日は週の半分程度
◇7回目◇
前回治療後、かゆみが3日ほどよくかゆみをほぼ感じなかったが、4日目からは少しずつかゆみを感じる
◇8回目◇
治療後かゆみを感じない期間が伸びてきた。
◇9回目◇
首肩の炎症はほぼなくなったが、お風呂上りや体を動かした後はかゆみを少し感じる
症例③
30代男性
子供のころから乾燥肌で夏になると汗疹などができやすい体だった。高校を卒業して初めての一人暮らしで生活環境・食生活の変化により、アトピー性皮膚炎を発症した。最初は、そのままにしておいたがあまりにも痒みと湿疹がひどくなったため病院でステロイド剤の塗薬を処方してもらった。塗薬を塗るとすぐに痒みと湿疹は軽減された。
それから就職や転職などのストレスの多くかかる時期にアトピー性皮膚炎を発症していたが、塗薬で対応していた。ある時、仕事が忙しく徹夜続きで食事も夜遅くに外食という生活を続けていたところアトピー性皮膚炎を発症して今回も病院で塗薬をぬったが以前よりも効果が薄れてきた。痒みが治まっても睡眠中にひっかいてしまったりと湿疹はどんどんひどくなっていってしまった。
本でアトピー性皮膚炎には鍼灸がいいとみてご来院された。
当院の治療
自律神経測定器で自律神経の状態を計測。特に副交感神経の活動が高く、交感神経の活動が乱れている状態でしたので自律神経の状態を整えつつ、東洋医学的観点よりアトピーに効果のある経穴を用いて施術していきました。合わせて問診時に生活習慣特に食生活が乱れていることが分かったので食生活を特に見直していただくように生活の指導もさせていただきました。
経過
施術開始から1か月程度は週に2回ほどのペースで施術していきました。最初の方はあまり効果が見られず、痒みや湿疹は変わらない状態でしたが、1か月を過ぎるころには夜搔き壊すことがなくなり肌の状態がだんだんとよくなっていきました。
2か月目からは治療間隔を延ばしていき、週に1回ほどのペースで施術してきました。一番症状が出ていた肘当たりの湿疹が経過してきてステロイドの塗薬が必要ないくらいとなった。
3か月目も週に1回ほどのペースで施術。生活習慣・食生活も改善されて痒みもほぼ感じなくなった。また症状が出ると怖いということでステロイド薬を少量塗っていたがステロイドの使用も中止しました。
症例④
30代男性
アトピー性皮膚炎の症状は幼少期からあったが、全身にひどく目立ち始めたのは15年前に1人暮らしを始めてから。ここ数年は良い状態と悪い状態を繰り返している。痒みがひどいときはステロイドの塗薬を使っていたが、現在薬は使用していない。アトピー性皮膚炎の合併症として白内障になり、両目の手術後から眼精疲労、頸肩のコリも強くなった。ひどいときは腕に痺れが出る。
当院での治療
アトピー性皮膚炎の症状は、ストレスなどによる自律神経の乱れや免疫力の低下などで発症しやすくなります。鍼灸で身体の免疫力を向上させ、体質改善を目的として身体全体をみた治療を行いました。まずは自律神経測定器で身体の状態を診ていきました。交感神経が非常に高く、常に神経が緊張状態にありました。精神的なストレス数値も高くでたので、まずは仰向けで自律神経の調整をし、その後うつ伏せで頸肩の筋肉の緊張をとっていきました。最後にまた仰向けになってもらい、顔と頭にローラー鍼を用いて柔らかな刺激を加えました。
治療経過
一回目
全身の血流がよくなり少し痒みがでたが効いている感じがした。
体がぽかぽかし、頸肩は治療後すこし軽くなった。
二回目
前回治療後、顔に出ていたアトピーの湿疹が減った。今までは一週間の間に良い状態と悪い状態を繰り返していたが、鍼灸治療をして一週間はずっと良い状態が続いている。体のアトピーはまだ変化を感じない。頸肩の凝り感はまだ取れない。
三~五回目
顔、体ともに痒みが減った。以前にステロイドの塗薬を使用していたため皮膚が硬くなっていたが、硬さが少し減った気がする。
頸肩の症状はまだあるが、以前よりは楽になってきている。痺れはない。
六~八回目
だんだんとアトピーの症状が軽くなってきている。
首肩の凝りも大分良くなったが仕事が忙しくなると辛くなるので、今後もアトピー治療と一緒に続けていきたいとのこと。
症例⑤
30代男性
幼少期からアトピー症状があり、季節の変わり目や秋に症状が強くでる。全身にかゆみを感じるため睡眠時間が減り、身体の疲れもとれにくい。ステロイドなど薬はもともと服用していないため、薬を使わず改善していきたいとのことで当院を受診された。
当院での治療
炎症が強い部分のまわりにお灸を行い、顔はローラー鍼を用いて炎症を抑えるよう治療した。自律神経の乱れもアトピー症状の原因になるため自律神経の調整もあわせて行った。また、アトピーは東洋医学では肺機能の低下が原因とされるため、肺に関係するツボに鍼とお灸を行った。自覚がなかったが手足の冷えが強くみられたので、手足末端にも鍼を用いて全身の血流改善をはかった。
治療経過
1回目
身体がぽかぽかする感じがした。
施術後は身体も頭もすっきりとして疲れがとれた感じがした。
3回目
施術した当日はかゆみも少なくよく眠れるようになった。
皮膚の赤みも以前より減っている。
10回目
かゆくて眠れないことはなくなった。
乾燥が強いと症状がでるが、それ以外は特に問題はない。
身体のこりや疲労はまだあるので、今後も通院していきたい。
アトピー性皮膚炎の鍼灸の臨床研究につきまして明治鍼灸大学で45症例に対して臨床的効果を検証したものがあります。
この研究では、治療回数が10回~110回で皮膚所見の改善が77・8%見られ、搔痒感が改善されたのが51・1%であったと報告されています。毛中の好酸球数を見ても優位な低下がみられて炎症の軽減が見られたことを血液検査からも証明されたとしています。また、IgE値も低下した例が多く見られており、鍼灸治療がアレルギー疾患自体にも効果を発揮することがわかりました。
アトピー性皮膚炎は東洋医学的にみると「湿熱」の病変だと考えられています。
「湿熱」とは、「湿邪」と「熱邪」とが合わさった病変で、両方の性質をもった症状が現れます。
邪気とは飲食などの環境因子が身体に影響をもたらすもので、「風邪」「寒邪」「湿邪」「熱邪」「燥邪」「暑邪」の6つがあります。「邪」につきましてあまり聞き慣れない言葉かと思われますが、東洋医学では、陰陽バランスの乱れや五臓六腑の病変などの以外は、邪が原因で発病していると考えられています。
現代医学でとらえますとウィルスや病原菌などが東洋医学では外邪と捉えられるのです。アトピー性皮膚炎では、湿邪と熱邪が合わさったものと捉えられますが、湿邪の特徴としまして、体内に水分が溜まってしまい気血や臓腑の働きが悪くなってしまうことです。湿度の高いところにいると体が重たく感じ頭がボーっとすることがあるかと思いますが、これは湿邪によって引き起こされるととられます。湿邪は、他の邪と合わさって症状として出やすいことも特徴で、湿邪と合わさって症状が出てしまうと病気が快復しにくくなってしまいます。
湿熱の邪気は、炎症あるいは免疫異常や水分代謝異常などの疾患を起きやすくさせます。湿邪と熱邪と合わさるほかにも例えば風邪と合わさると「風湿」となり、関節リウマチ等でよくみられます。
熱邪に侵されてしまうと特に上半身に熱が上がり皮膚の炎症やインフルエンザ症状など身体に熱を持たせてしまうことが特徴です。熱邪がさらに進行すると「火邪」となり、熱症状がさらに悪化してしまいます。
湿邪は五臓六腑の機能を低下しがちですが、特に東洋医学でいう「肺」「脾」「腎」の機能低下を起こしやすくさせます。
アトピー性皮膚炎に関すると特に「肺」「脾」の機能低下がよく見られます。肺の状態は、鼻や肌にあらわれやすいとされています。脾の状態は、唇や上肢・下肢にあらわれやすとされています。
肺と脾
『肺は気を主り宣散・粛降を主り、脾は運化を主る』
肺と脾は、共同して気の生成に重要な役割をもっていて、津液(水分)を全身に送り届ける役割とそれらを外に出す役割をになっています。肺と脾の機能が低下してそれらの役割をこなせなくなってしまうと皮膚を保護する機能が低下してさらに皮膚は乾燥してアトピー性皮膚炎を起こしやすくなると考えられます。
アトピー性皮膚炎とは、痒みのある湿疹を主な症状として症状が軽快したり増悪したりを繰り返す疾患です。もともとアレルギー素因をもっていたり、皮膚が乾燥しやすく皮膚を守る機能が低下して皮膚が炎症を起こします。
日本アトピー協会ではアトピー性皮膚炎の診断基準を
1.痒み
2.特徴的湿疹の分布
3.慢性・反復性経過
と定めています
アトピー性皮膚炎で見られる特徴的な皮膚の状態として
などがあります。
アトピー性皮膚炎では年代別で様々な経過をたどっていきます。
幼少期では、はじめ顔や頭に湿疹ができて次第に全身に症状が広がっていきます。新しい食べ物を食べることで起きることもあります。自然と治る場合もありますが、2カ月以上湿疹が続き、アトピー性皮膚炎と診断される場合があります。
アトピー性皮膚炎が治まらずに成長していくと、皮膚が乾燥して痒みが強くなり掻き壊してしまい皮膚がただれたり厚くなったりして、単純ヘルペスや目の疾患などの合併症にかかってしまう可能性があります。
顔面部の痒みにより目を擦ったりすることが多くなることで合併症が出ることがあります
アトピー性皮膚炎の原因ははっきりと分かっていませんが、遺伝などによるアトピー素因を持っていることと環境が関係していると考えられています。
遺伝による体質に、環境などが強く関係して発病すると考えられます。それぞれにはアレルギーに関係するものと、それ以外のものがあります。これらは、発病のきっかけになると同時に、症状を悪化させる原因にもなります。
アトピー素因とは
・家族歴
家族にアトピーの人がいる
・既往歴
以前に気管支喘息・アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎などに罹ったことがある
これらの素因を持っているとアトピー素因を持っていると言われます。しかし、これらの素因を持っていてもアトピー性皮膚炎を発症しない人もいます。
また乾燥肌もアトピー性皮膚炎にかかってしまう一つの大きな要因です。肌が乾燥していて肌を保護する機能が低下しているので、アレルギー原因となる異物から肌を守ることができなく、汗やタオル、化粧品の刺激などにも敏感に反応してしまいます。一度反応が出るとかゆみを伴うので掻き壊してしまいさらに異物が侵入しやすい環境を作り出してしまい炎症をさらに悪化させてしまうという負のスパイラルに陥る危険性があるのです。
アトピー性皮膚炎と自律神経の乱れはとても深い関係にあると言われています。人間には、自分の意志で動かす働きのある体性神経と自分の神経とは無意識に働く自律神経の大きく分けて2つの神経が存在しています。そして自律神経には活動的な神経である交感神経と体を休める神経である副交感神経とがあります。
自律神経系は内臓の働きを主っており、血流の調整や免疫系もつかさどっているのです。外的環境から体を守る仕組みとしてこの自律神経系を介した働きと内分泌系による働きがバランスよく働いていることにより機能しています。アトピー性皮膚炎は、外的素因に対して過剰に体が反応しているということが考えられますので何かしらの原因により自律神経のバランスの乱れが体の免疫に影響を与えてアレルギー反応を起こしていると考えられているのです。
特にアトピー性皮膚炎では副交感神経が優位の状態が多くみられます。副交感神経が優位となり自律神経のバランスが崩れて体の免疫が異常をきたすことでアトピー性皮膚炎となってしまっているのです。
また皮膚の炎症を抑えるためにステロイドを使い続けていた場合は交感神経が優位の状態が多く見受けられます。
清水大地
資格
はり師
きゅう師
2008年 鈴鹿医療科学大学鍼灸学部 卒業
卒業後2年間北京中医薬大学に留学。日中友好病院にて多くの臨床経験を積む
2011年 おおうち総合鍼灸院に勤務。眼科鍼灸の確立
2014年 中目黒にて東京α鍼灸整骨院を開院
2016年 渋谷α鍼灸整骨院を開院
2018年 三軒茶屋α鍼灸院を開院
Posted by 中目黒の鍼灸院 東京α鍼灸院|眼精疲労 at 11:45 / 院長コラム コメント&トラックバック(0)