斜角筋症候群は胸郭出口症候群の1つであり、頸部の筋肉の前斜角筋か中斜角筋、その両方が過剰に緊張して神経や血管を圧迫することで、痛みや痺れ、手の冷感、蒼白といった症状を引き起こす疾患です。
斜角筋は前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋の3種類があります。
◯前斜角筋
第3~6頸椎の横突起から起こり、第1肋骨に付着。
◯中斜角筋
第2~7頸椎の横突起から起こり、第1肋骨に付着。
◯後斜角筋
第5~6頸椎の横突起から起こり、第2肋骨の外側に付着。
前斜角筋と中斜角筋の間には、腕神経叢と鎖骨下動脈が通っています。
腕神経叢は、前腕と上腕の屈曲運動を司り力こぶを作る動きをする上腕二頭筋の筋皮神経、掌や掌側の第1~3指と第4指の内側半分の感覚を支配し、前腕の回内、手首や指の屈曲、母指球筋の動きを司る正中神経、第4指の外側半分と第5指の掌背側の感覚、前腕の小指側の感覚を支配し、手首と指の屈曲や母指球以外の掌の筋肉の運動を司っている尺骨神経、第1~3指の背側、手、前腕、上腕の遠位の背橈側(親指側)の感覚と、肘や手首、指を伸ばす運動を司る橈骨神経に枝分かれしていきます。
鎖骨下動脈は胸郭の上部を横方向に走行する大きな動脈で、頭部や腕に血液を供給しています。
途中で前斜角筋と中斜角筋の間(斜角筋隙)を通り腕に走行していきますが、斜角筋隙が狭くなることで血管が圧迫され前腕や上肢への血流が低下し冷え感という症状が現れます。
斜角筋症候群の1番多い原因は、長時間のパソコン作業やスマートフォン使用による頸部への負荷になります。
下を向く、顔をパソコンの画面に近づけて望みこむような姿勢を繰り返し行うと頸椎が真っすぐに変形するストレートネックになってしまうことがあります。本来人間の頸椎は頭の重量を支えるため横から見て湾曲しています。人間の頭はボーリングの玉と同じぐらいの重さがあり、湾曲することでその重量から首への負担を分散しています。
しかし、ストレートネックになると重量を分散できなくなり、斜角筋に大きな負荷が掛かってしまいます。
また、テニスのサーブ、野球の投球動作、ゴルフのスイング、バレーボールのアタックといったスポーツによるオーバーワークや、重いものを持つ、なで肩、冷えによる斜角筋の筋温低下、精神的ストレスでも首や肩周りの筋緊張を起こす原因になります。
斜角筋症候群の症状は、肩や腕の痛み、手のしびれ、手の冷感、蒼白があります。
また、神経や血流低下によって肩から指先にかけて力が入りにくいといった筋力低下も起こることがあります。
斜角筋症候群は肩こりや頸椎椎間板ヘルニア、頚椎症などその他の頸肩腕症状と似ているため鑑別が必要です。
①モーリーテスト
患側の前斜角筋と中斜角筋の間を指で圧迫する。
腕や肩に神経症状が現れれば陽性。
②アドソンテスト
座った状態で患側の手首の脈を確認し、患側側に顔を向けさせた状態で頸部を後屈させる。その体勢のまま大きく息を吸いきったところで息を止める。その時手首の脈が減弱したら陽性。
③ルーステスト
腕を開いて肩まで拳上し、手が上になるように肘を直角に曲げる。
その状態で手を握る、開くを繰り返し行う。その動作を3分間継続できない場合は陽性。
当院では原因部である前斜角筋と中斜角筋の筋緊張を徹底して緩める事を目的とした施術を行います。
斜角筋だけではなく、頸部全体の筋緊張を軽減するために胸鎖乳突筋、板状筋、僧帽筋、大胸筋にもアプローチしていきます。
筋緊張が強い場所には低周波通電鍼療法を加えて行っていきます。
筋緊張を緩めることで痛みやしびれ、冷感、蒼白等の原因になっている神経や血管の通りを改善していきます。
また、痛みや冷感が強い患部には直接鍼やお灸を施すことで血行を促進させ症状を緩和させていきます。
当院では、筋緊張の緩和だけではなく自律神経の調節も同時に行います。
痛みやしびれでお悩みの方はそのストレスで自律神経が乱れることが少なくありません。
自律神経は自然治癒力や血流をコントロールしているため、少しでも早く改善させるために非常に大切です。
東洋医学では斜角筋症候群は体外からの邪気を受けることで発症すると考えられています。
五臓六腑の「肝」「脾」「腎」が邪気を受けて損傷し機能が低下し、これらの働きが悪くなると頸部や上肢の気血が滞ってしまいます。その滞りが痛みやしびれとして考えられています。
東洋医学での「肝」は、血液を貯蔵し必要に応じて筋肉や各器官に供給する働きや、自律神経系の働きを通じて血管の拡張・収縮運動をコントロールし体内各部の血液量を調節する作用があります。
「脾」は口から摂取した食べ物の栄養を吸収し、気血水を作り出す働きがあります。脾の栄養は筋肉や四肢の運動に大きく影響しています。
「腎」は呼吸や水分代謝といった生命活動や人の成長、発育に大きく関わっています。
「肝」「脾」「腎」の3つの機能が低下すると全身の血が不足し、筋肉が栄養不足になるため斜角筋症候群が発症すると考えられています。
症例 1
30代 男性
1か月以上前から、首前面の違和感や手のしびれ、力が入らないといった症状が出てきた。長時間下を向く作業を行った後、首に痛みがでて湿布薬を貼った後から、手のしびれが出るようになった。
整形外科を受診したところ、姿勢不良による斜角筋症候群と言われ、ご来院された。
当院の施術
触診では、首の前面だけでなく、後面から肩、背中の筋緊張が強く見られた。
首の筋肉が神経を圧迫し違和感やしびれが生じているため、鍼とお灸で筋緊張を和らげる施術をしていきました。また、斜角筋だけでなく、首肩周りの筋肉も弛緩させるような施術をしていきました。より筋緊張をとるため自律神経の調整も行いました。
一回目
鍼灸を受けるのは初めてだったため、弱めの刺激でお灸と置鍼のみ行いました。施術後は首肩周りの筋肉の緊張がほぐれた。
二回目
前回の施術後から、首の違和感や手のしびれはマシになった。
今回から鍼通電療法も行った。
三回目
手のしびれや、首前の違和感はなくなった。
以前よりある肩回りのこりが気になるため、週に1、2回のペースでご来院されている。
Posted by 中目黒の鍼灸院 東京α鍼灸院|眼精疲労 at 10:15 / 院長コラム コメント&トラックバック(0)