①問診
しっかりと時間をかけて問診していきます。ストレスや環境の変化により発症する場合もあります。症状の経過などによっても治療過程が変わってきますので詳しくお伝えください。
②検査
自律神経測定器を用いて現在のお身体の状態を計測していきます。また柳原法を用いて症状の進行具合を診ます。
③うつ伏せ治療
背部には五臓六腑の重要な経穴があります。東洋医学の診断法に基づいて弱っていると臓腑、逆に強くなりすぎている臓腑を経穴を刺激して調整します。顔面神経麻痺の方は、首肩の筋緊張が強い場合が多いのでそれらの筋肉をほぐしていきます。
④仰向け治療
顔面部に鍼やお灸をしていき、同時にお腹や上下肢などの重要な経穴を刺激して自律神経を調整していきます。
顔面神経麻痺は、2週間以内の早期に治療を開始するとそれだけ予後も良いです。しかし、慢性期の方や後遺症が残っている方でも鍼灸施術で改善していったという症例が多くございます。
※顔面神経麻痺の効果についての研究
東京女子医科大学の東洋医学研究所の研究では、顔面神経麻痺の鍼灸効果についての研究がされており、鍼治療の効果のエビデンスはいまだ解明されていないものの鍼刺激が顔面神経や顔面神経管等の周辺組織の血流が改善されることで麻痺の回復を促すことが研究結果から推測されています。
「難治性のBell麻痺およびHunt症候群に対する鍼治療効果の検討ーENoG値0%でかつNETスケールアウトであった29例の検討」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/60/3/60_3_347/_article/-char/ja/
この研究では、1996年8月から2004年6月までの間に鍼治療を行った顔面神経麻痺患者の中で電気生理学的検査で全く反応がなく一般的には予後不良となる方29例を対象に行われました。
結果では、発症後6か月以内に顔面神経麻痺が完全治癒したのが17・2%で不完全治癒が82.8%でした。不完全治癒が圧倒的に多いかと思いますがこの研究で扱った症例では、一般的には治癒見込みがないとされる症状の重い状態の患者さんであってそういった患者さんでも鍼の有効性が認められ、顔面神経麻痺の鍼灸治療の効果が示されています。
40代 男性
3週間ほど前に風邪をひいて体調を崩してから頭痛や耳の後ろ当たりの痛みを感じるようになった。痛み自体は2日ほどでほとんど軽減されたが、右顔面部の動かしずらさを覚えて病院を受診したところ、顔面神経麻痺の診断を受けた。
病院では主に経過観察でビタミン剤などの栄養剤を処方されただけで次は1か月後に来院されてくださいとだけ言われて他に何か治療手段はないかと検索をかけたところ鍼灸治療が効果があると知って当院にご来院されました。
当院の治療
体調を崩されてからの顔面神経麻痺の発症ということで自律神経の状態も何かしら顔面神経麻痺に影響を及ぼしている可能性もあるので自律神経測定器で自律神経の状態を測定して治療に入っていきます。
測定の結果交感神経の活動も高く、最近よく眠れていないということから全身的な副交感神経の活動を高められるような施術も含めて行っていきました。
うつ伏せから施術を行い首肩周りの筋緊張の緩和、背部兪穴を用いた五臓六腑の機能回復を行います。
その後、仰向けとなり右顔面部中心に鍼灸施術を行っていきます。
治療経過
最初問診時、特におでこのしわ寄せ動作や口をイーっと横に広げる動作が右顔面部できていない状態でした。また、目もうまく閉じれない状態でドライアイも出ていた。
一回目の治療では顔周りの鍼通電治療は症状悪化の可能性も高くなるので行わずに顔周りは鍼とお灸で刺激していきます。
一回目の施術後その日の夜に目の閉じやすさを実感。口元やおでこはまだあまり変化を感じることができない。
2回目後はおでこのしわ寄せ動作も少しずつですができるようになってきた。
3~4回目では症状にあまり変化がみられなくなったため5回目以降は耳の後ろと口元の右横とおでこ周囲に低周波の鍼通電治療を行っていき、変化をみていきます。
6回目の施術後次の日から明らかに口元の動きが改善、口をイーっと行う動作が左側とさほど変わらないくらいまで回復。
7回目以降は大きな変化は見られなかったが少しずつ回復していって10回目で施術を終了。ほぼ完治された。
症例2
40代 男性
2週間前に体調を崩し風邪を引いた。風邪が治りかけたタイミングで耳の奥に痛み出始め、左顔面部に帯状疱疹が発症した。帯状疱疹が治り始めてしばらくたったら、左片側顔面神経麻痺が発症した。
主な症状は、額のしわ寄せ、閉眼、ほほを膨らませる、口の動きなどが不能。
病院ではラムゼイ・ハント症候群と診断され、最初はステロイド薬の治療を行い、その後は抗生物質での治療に切り替え経過を見ている。少しでも早く改善したいと思い当院を受診した。顔面神経麻痺以外には、首肩のコリも気になる。
当院の施術
寝不足もあり体調を気にしていましたので、まずは自律神経測定器で現在の自律神経の状態を確認しました。
多少交感神経の活動が優位になっていましたが、バランスはそこまで大きく乱れてはなく、ほぼ正常に近い状態でした。
しかし、いち早い改善を目指すためにはさらに自律神経の調節が必要不可欠になります。
そのため、顔面神経麻痺、首肩コリに対する施術の他に自律神経調節治療も同時に行いました。
発症からまだ期間も短く、異常共同運動のリスクを避けるために、電気鍼は行わず低刺激で血流を促進させ末梢神経損傷部の再生を促す事を目的とした施術を行いました。
その後、末梢神経損傷部の再生が完了し、異常共同運動のリスクが消滅した時点で顔面部の筋委縮を弛緩させる鍼通電療法に切り替えていきました。
経過
1回目
まだ大きな変化はないが、心身ともにリラックスできた。
2回目
顔のこわばりは少し楽になった。
3回目
瞼は前より閉じやすくなってきたが、ほほや口の動きはまだ変化がない。
4回目
以前より口が動きやすくなってきた。首の張りが気になる。
5回目
以前より軽快してきた。
継続して通院中。
顔面神経麻痺とは顔面の表情筋をつかさどっている顔面神経が何らかの原因により、神経麻痺をおこして顔面部の筋の運動麻痺を主とした様々な症状が現れる疾患です。
発症にとくに男女差はみられませんが、発症前に仕事が忙しかったり、ストレスを著しく感じていたり、風邪をひいて寝込んでいたりと身体が弱っている時に発症しやすいことが言われています。
また、発生頻度は高齢の方のほうが高く、血圧の高い方や血糖値の高い方に多い傾向にあり、そのような方は治る過程も遅くなります。
東洋医学では、病気の原因は大きく分けて内因(体質素因・精神的素因)と外因(生活素因・自然素因)、病理的産物とに分けられます。外因は内因を通してはじめて病変して身体に影響が出ます。
顔面神経麻痺の場合、外因が深くかかわっていると考えられています。
東洋医学の外因とは
・生活素因
暴飲暴食や過労、性生活が過剰であったり、睡眠が不規則であったり、運動不足などにより日常生活が乱れている場合に病変として現れます。
・自然素因
環境の変化や細菌やウィルスなどによる体の外から来る病気の原因によって病変が現れます。東洋医学では、自然界の気候の変化を「風・寒・暑・湿・燥・熱」の6つに分けられ、それらが人体に作用して病変が起きる状態を「風邪・寒邪・暑邪・湿邪・燥邪・熱邪」と呼びます。
顔面神経麻痺の東洋医学での原因
東洋医学では、末梢性顔面神経麻痺は風邪と寒邪が合わさった病変だと考えられています。
風邪は
・突然発症する
・変化が多い
・人体の表面部分をおかしやすい
などの特徴があり、風邪によって顔面部の経絡の流通が妨げられて、運動麻痺や痺れ、痛みなどが発症すると考えられています。
寒邪は
・全身あるいは局所の寒冷症状
・固定制の疼痛や筋肉のひきつれ
・体が冷えると症状が強く出る
などの特徴があり、ストレスや生活の不摂生などにより、体の防御反応が弱くなってきた際に顔面部に寒邪が侵入しやすく、神経麻痺が起きます。
顔面神経は12対ある脳神経の一つで、第七脳神経とも呼ばれます。顔面神経は左右の脳幹から出て、内耳神経と一緒に内耳道、中耳腔を通って側頭骨を貫きます。さらに単独で顔面神経管という管を通り、耳の前下あたりから出て表情筋などへ伸びていきます。
また顔面神経管を通るあたりから涙腺や唾液腺、味覚をつかさどる神経の枝を出します。
主に顔面部の表情筋の運動を主っており、また涙腺や唾液腺、味覚などにも関係する神経が出ており、顔面神経麻痺が起こったときは、それらの症状も発症することがあります。
顔面神経麻痺に起こる主な症状としまして
表情筋の麻痺
顔面神経は顔の表情筋を主っているため顔の表情筋が麻痺します。両側に起こることは少なく、多くは片側に麻痺が出ます。
顔の表情筋に麻痺が出てしまうと
などの症状が出ます
味覚障害
唾液腺の障害
涙腺の障害
顔面神経麻痺には、大きく分けて中枢性と末梢性があります。
中枢性顔面神経麻痺
脳幹より上位の中枢側の障害による顔面神経麻痺です。脳卒中や脳梗塞などによって引き起こされます。一般的に中枢性の方が末梢性よりも予後が悪いです。
顔面神経麻痺の症状に加えて下記のような症状が出た場合はすぐに専門医を受診してください。
末梢性顔面神経麻痺
顔面神経麻痺のほとんどは末梢性顔面神経麻痺です。末梢神経麻痺は、脳や脊髄の中枢から手足など様々な部分に伸びる末梢神経が障害を受けるために麻痺が起こります。
顔面神経の場合は顔の筋肉を支配してますので、顔の筋肉の麻痺が起きてしまうのです。
末梢神経麻痺の代表的なものとしてベル麻痺とハント症候群が挙げられます。 ベル麻痺は、顔面神経麻痺全体の7割近くを占めます。次いでハント症候群が挙げられます。
ベル麻痺は末梢神経麻痺の中でも発症頻度が高く、およそ10万人に23人もの割合で発症し、年齢男女問いません。原因としましてはわからないとされていましたが、近年の研究により単純ヘルペスウィルスの感染・再活性が原因という説が有力です。
従来ベル麻痺に関しては原因不明とされてきましたが、近年ではヒト単純ヘルペスウイルスの再活性が原因とされるウイルス説が有力とされるようになってきました。
ベル麻痺は前駆症状がなく、いきなり顔の片側の筋肉が動かしづらく感じて筋力低下を起こす場合もありますが、発症の数時間~2日前に耳の後ろの痛みを感じて顔面神経麻痺を生じる場合もあります。
ベル麻痺による麻痺の程度は軽度から重度のものがあり、発症から2日以内が最も筋力低下が起きやすい期間となります。
顔の筋力の低下が起きると、目を閉じづらくなり眼球結膜が常に見えた状態の兎目という状態になることがあります。また、額にしわを寄せる・口角を上げる・口を膨らませるといった動作ができなります。
ベル麻痺による影響は、顔の筋肉に留まるばかりでなく、涙腺や唾液腺にも影響を与えるため目や口の渇きを感じる場合もあります。
ベル麻痺は数ケ月の間に自然治癒する場合もありますが、長い時間顔の筋肉を使わないため筋肉が拘縮したり、筋力低下による顔の垂れ下がりなど後遺症も残る場合も多いので注意が必要です。
また、目の乾燥や閉眼動作ができないた目の表面が傷つきやすく、視力の低下などにもつながる可能性があるのでしっかり目もケアしていく必要があります。
ハント症候群とは、末梢性顔面神経麻痺の中でベル麻痺に次いで2番目に多い疾患です。ベル麻痺との大きな違いは、顔の筋肉が動かしづらい症状に加えて強い痛みを感じることが特徴です。
ハント症候群の原因は水痘帯状疱疹ウィルスです。幼少期などに水ぼうそうに感染し、体にウィルスが潜伏していた場合に発症するリスクがあり、体の疲れやストレス、免疫力の低下などの原因によりウィルスが再活性して症状が現れます。
ウィルスが活性化する神経によって症状が異なりますが、ハント症候群の場合顔面神経でウィルスが活性化します。すると、耳や口の中に水泡やかさぶたを生じて強い痛みを感じるのです。
また、顔面神経近くを通る内耳神経にも影響を与えるので、難聴や耳鳴り・めまいなどの症状も現れる場合もあります。
ハント症候群はベル麻痺よりも治癒率が低く、時間が経てばたつほど治りも悪くなるので早期に治療を開始することが重要です。顔の筋力が戻らない・病的共同運動・筋肉のひきつれなど後遺症が残ってしまう場合も多いです。
病院では、MRI検査やCT検査などの画像診断で中枢性か末梢性か検査されます。脳卒中などで中枢性に障害を受けている場合は、顔の神経麻痺ばかりでなく片側の上下肢にも痺れや筋力低下が起きるので、診断は可能かと思います。しかしまれに頭部外傷や腫瘍、その他の感染症で顔面神経麻痺が起きる場合もあるので、一度病院で検査を受けていただく必要があります。
当院では、顔面神経麻痺の際に使用される評価法40点法(柳原法)を用いて顔面の筋肉運動の評価をしていきます。柳原検査法は、麻痺の程度を把握するためにとても重要な検査で顔面間神経麻痺の評価法において世界的にも用いられている検査法の一つです。
柳原法は、顔面の筋肉各部の動き・麻痺の程度を評価する検査法で、ベル麻痺とハント症候群を評価するために作成された評価法です。
これら9つの項目40点満点で評価します。
顔面神経麻痺の種類によって治療法は変わってきます。
ベル麻痺の場合は、単純ヘルペスウィルスに有効な抗ウィルス薬が処方されて、ハント症候群に関しましては、水痘帯状疱疹ウィルスに有効な抗ウィルス薬が処方されます。その他にも神経を早期に修復させる目的でビタミンB12やビタミンEなどの製剤が処方されたり、星状神経節ブロックやリハビリなどの保存的両方が採用されます。
顔面神経麻痺が重くなるにしたがってお薬の量が増えて、重度の場合は入院して集中的に治療する場合もあります。
清水大地
資格
はり師
きゅう師
2008年 鈴鹿医療科学大学鍼灸学部 卒業
卒業後2年間北京中医薬大学に留学。日中友好病院にて多くの臨床経験を積む
2011年 おおうち総合鍼灸院に勤務。眼科鍼灸の確立
2014年 中目黒にて東京α鍼灸整骨院を開院
2016年 渋谷α鍼灸整骨院を開院
2018年 三軒茶屋α鍼灸院を開院
Posted by 中目黒の鍼灸院 東京α鍼灸院|眼精疲労 at 19:04 / 院長コラム コメント&トラックバック(0)