後頭下筋群とは、後頭部と首の境目にある筋肉の総称です。詳しくは大後頭直筋、小後頭直筋、上頭斜筋、下頭斜筋の4つの小さな筋肉たちのことをいいます。
これらの後頭下筋群は、頭の骨と首の骨を繋いでいる筋肉です。働きは、頭を後ろに傾ける動き(後屈)や首を後ろにそらす動作(伸展)、顔を振り向く時の頭の動き(水平回旋)、頭を横に倒す動き(側屈)をサポートしています。また重要な動きの働きとして、頭が前にカクンと落ちないように後ろで引き留める働きがあります。そのためパソコンやスマホを長時間使う現代では常に働き続けている筋肉たちになります。
後頭下筋群は、首の筋肉の中で1番骨の近くにある筋肉です。後頭下部の皮膚の下の筋肉は、浅いところから僧帽筋、半棘筋があり、1番奥に後頭下筋群があります。そのため後頭下筋群が硬くなると首や頭の動きに直接影響を及ぼします。
また後頭下筋群は脊髄神経によって支配されています。加えて後頭下部の1番奥にあるため延髄に近い筋肉たちです。延髄とは生命を維持する上で重要な中枢が集まっている場所です。心臓や血管などの循環、呼吸、咳、嘔吐、嚥下、唾液分泌、発汗などの中枢が延髄にあります。循環や呼吸などの多くの調節を自律神経が行っております。
次に後頭下筋群の特徴として、筋紡錘とゴルジ腱器官が多数内在していることが分かっています。これらは筋肉の緊張(張力)や長さを感知します。よって後頭下筋群は頭の位置や傾きを敏感に感知して、頭の平衡を保ち、倒れないようにしています。
他にも眼球運動に伴って筋収縮を起こすことも特徴のひとつです。
〈眼の症状〉
眼の奥の鈍痛やだるさ
眼のかすみ
ピントがぼける
頻繁に眼を長時間使うことで眼の周りの筋肉(眼輪筋・雛眉筋)や眼を動かす筋肉(上斜筋や下直筋など)への血液の巡りが滞るため眼の症状が出てきます。眼を動かす筋肉と連動して筋収縮が起こる後頭下筋群にコリや痛みがあると眼の症状が出やすくなります。
〈頭の症状〉
後頭部の鈍痛
前頭部や眉あたりの痛み
頭皮の硬さ、薄毛
後頭下筋群の表層には僧帽筋があり、僧帽筋は後頭骨上項線で後頭筋に接します。後頭下筋群のコリや痛みが僧帽筋や後頭筋に影響することで後頭部の鈍痛を引き起こします。
後頭筋は帽状腱膜により、前頭筋・側頭頭頂筋と繋がっています。そのため慢性的に後頭下筋群のコリがある場合は影響が頭全体に及び、前頭部や側頭部の痛み、薄毛などの症状が現れます。
〈自律神経の症状〉
身体がだるい、疲れやすい
手足が火照る
胃膨満感、便秘下痢
後頭下筋群に多数存在する筋紡錘とゴルジ腱器官は、常に真っすぐ前を向けるよう頭の位置を感知しているとともに、筋の緊張も感知しています。そして筋紡錘は自律神経支配を受けているとされています。他の筋肉より筋紡錘が多い後頭下筋群が緊張していると、自律神経の働きが乱れやすくなります。また後頭下筋群の近くには延髄があり、内蔵や他の組織からも多くの自律神経が集まっている場所です。後頭下筋群の緊張は内蔵や血管、呼吸など全身の自律神経に影響を及ぼすため、全身のだるさや疲れやすさだけでなく、胃や腸の不調をきたします。
現代社会で最も後頭下筋群の過緊張を起こす原因は、パソコン・スマートフォンの使用です。パソコンやスマートフォンの操作では、頭頚部を動かさずに少ない眼球運動のみを長時間行っています。眼の筋肉に疲労が溜まって負担が掛かるとともに、後頭下筋群も眼に伴って収縮するので筋疲労を起こします。
またパソコンやスマートフォンを操作する時の姿勢にも問題がある場合が多いです。パソコンを使う多くの方が、首が前に出ており、肩が内に入って、背中が丸まっている状態で操作しています。この姿勢は首元が強制的に圧迫される姿勢のため、後頭下筋群に圧迫のストレスが掛かり続けます。またスマートフォンを使う姿勢では、首が常に下を向いている状態が続きます。この姿勢は後頭下筋群が引き伸ばされるストレスが掛かり続けます。
こうしたストレスが毎日何時間も掛かり続けることで慢性的に後頭下筋群にコリや過緊張を起こします。
後頭下筋群の鍼灸治療では、首の後ろの痛みだけでなく、眼の症状・頭の症状・自律神経の失調症状を伴うことが多いため、それぞれに合った鍼灸治療をしていきます。
始めに自律神経測定器を用いて自律神経の状態を計測していきます。
後頭下筋群に痛みがある方は交感神経が過活動になっている場合が多く、交感神経の過活動を抑えて副交感神経とのバランスを図ります。
東洋医学的な考え方では自律神経の乱れは全身の気の巡りに不調をきたすと起こると考えられるため、疏泄(気を巡らす働き)を司る「肝」の機能を補うツボを使って治療していきます。
「肝」は五行色体表では眼と繋がりが深く、眼の症状がある場合も「肝」を補うツボを使っていきます。眼の症状がある場合はさらに眼の周りにあるツボも使い、眼輪筋や眼を動かす筋肉の血行を促します。
頭に症状がある場合には首の後ろだけでなく、前後頭部・側頭部にも鍼を行い、頸部の胸鎖乳突筋や肩部の僧帽筋などにも施術していきます。
痛みが発生する原因が日常の生活にあるため、慢性的に症状がある場合が多く、定期的なケアが必要になります。
症例
40代 男性
何年も前から首のコリに悩まされており、特に頭と首の間の所が辛くてたまらない。
指で押しても患部に届いている感覚がなく、深部の筋肉が凝り固まっている感覚がある。
ひどくなるとこめかみから後頭部にかけて締め付けられるような痛みが数日続くこともある。
横を向いたり、上を向くと首の付け根で引っかかるような嫌な感覚があり可動域も制限されている。
マッサージやストレッチではどうする事も出来ないため、鍼灸に藁にすがる思いで来院した。
普段はデスクワークが中心で、1日に8時間以上はパソコンに向かって仕事をしている。
当院の施術
まず、仰向けの状態で自然治癒力や血流を促すために自律神経の調節を行いました。
自律神経が乱れてしまうと血流が悪くなりコリができやすくなります。
また、交感神経が過剰に働くと筋肉を収縮してしまうため、副交感神経を働かせ心身ともにリラックス状態にしてから後頭下筋群に対してアプローチをしていきました。
体位をうつ伏せの状態に変え、後頭下筋、首、肩と背部や腰部に刺鍼し筋緊張を緩めていきました。
とくに患部である後頭下筋群(大、小後頭直筋、上、下頭斜筋すべて)に対してはしっかり深部まで鍼を刺入し、深部のコリを刺激していきました。
経過
1回目
施術終了時からとてもすっきりして、すがすがしい気分になった。今まで手が届かなかった深部のコリを刺激してもらえたのでよかった。辛さも軽減した。
2回目
前回後からかなり辛さがなくなった。
忙しいとまた硬くなる。
3回目
ほとんど気にならない。
快適に過ごせている。
Posted by 中目黒の鍼灸院 東京α鍼灸院|眼精疲労 at 12:40 / 院長コラム コメント&トラックバック(0)