五十肩(肩関節周囲炎)のはり灸治療

五十肩の鍼灸治療はWHO(世界保健機構)に適応疾患として定義されています。

WHOの適応疾患について←

 

①五十肩(肩関節周囲炎)に対する当院の治療

当院の五十肩に対する治療の目的は、第一に頸部や上肢付近のツボや痛みの強い部位に鍼をさして微電流を流したりお灸をすることにより血行を良くし、老廃物を取り除くことや筋肉や骨に栄養が行き渡るように促します。また鍼を刺すことにより筋肉の弛緩を促し、鍼の刺激により痛みを感じる閾値を上げて痛みを感じにくくする作用を促します。

五十肩の進行状況によっても治療は変わってきます。急性期では肩関節周囲の炎症が強く出ている為、炎症を早く収まるような鍼灸施術を用いて炎症を早く抑えるような施術をしていきます。この時期では、運動療法などの可動域を広げる施術などは行わずに肩関節をとにかく安静に保つことが重要です。五十肩での一番重要な時期は、急性期から拘縮期に変わる移行期です。

この時期は何をしていなくても激痛が走るようなことがだんだんと治まってきて限局された痛みではなくぼんやりとした痛みや動かすと痛みが出るという状態となります。この時期に肩関節が痛いからと言ってあまり安静に保ち過ぎると肩関節は固まって固定されてしまうためなかなかその後も可動域範囲を正常に戻すことが難しくなってしまいます。
この時期に痛みの管理と肩関節拘縮させない運動療法を行っていくことで回復する程度とスピードは格段と上がります。

うまく拘縮期を乗り越えて回復期に入ると今まで動かせていない部分の筋肉は筋力低下を起こしてしまっている為、筋力をつけていくことが重要となってきます。また回復期に入ると今まで肩の痛みで気にならなかった肩甲骨周囲の痛みや張り感が気になり始めることが多いです。それらを取り除くことも肩甲骨がスムーズに動くことで肩関節への負担の軽減となるため積極的に施術していきます。

東洋医学で考えると五十肩は五臓六腑の「」と「」と「」に深く関係しているので肝と腎と脾に関するツボを用いて肝血や腎気を補うことや脾の作用不足を正常に戻すように促します。また「風寒」や「湿」の邪気によって引き起こされる場合はそれらを体外に出す治療が必要になります。

東洋医学の診断方法に基づき全身の調整治療も行っていきます。五十肩は、全身性の疲労や気血の滞りが原因の場合もあるので肩背部だけの部分的な治療ではなく全身を診て治療していきます。それは中医学の特徴でもあります。全身治療を行うことにより人間が本来もっている自然治癒力を高めます。五十肩の鍼灸治療はWHO(世界保健機関)でも有効とされています。

また、慢性的な痛みは、交感神経を過亢進の状態に導き、自律神経の乱れに繋がります。当院では、自律神経測定器を用いて自律神経の状態を把握することで他ではない治療効果を得られるのです。

 

五十肩の鍼灸治療

 

②五十肩の鍼灸治療症例

50代 女性
3か月前から右肩の痛みが出るようになった。整形外科を受診したところ、肩関節周囲炎と診断されて湿布薬と鎮痛薬を処方されてとにかく痛みが強いうちは安静にと指導された。初めのうちは夜間痛もあり、あまり睡眠をとることが出来なかった。1か月程すると夜間痛は消えて腕を上げたり、ブラジャーのホックを止めようとすると痛みが出る程度。そのような状態が1か月程続いたころつまづいて転倒しかけたところとっさに右腕を使ってしまいまた夜間痛が出るようになってしまった。しばらくしたら落ち着いてきたがまだ安静時に右肩が痛む。
治療
まず、炎症を早く治める施術と鎮痛効果が期待できる鍼通電療法を用いて施術していきました。ある程度痛みが治まってきたら、鍼灸施術に加えてマッサージなどの手技療法で筋肉の過緊張状態を取っていき、可動域を広げるような手技療法も行っていきました。

◇1~4回目◇
炎症を抑える施術・鎮痛効果の鍼通電療法を中心に施術。段々と安静時痛は取れてきた。4回目を終えるころにはぐっすりと眠るこができるようになった。

◇5~8回目◇
肩関節周囲の筋緊張をとる施術と可動域を広げる施術を行っていきました。腕が肩より上に上げることが出来なかったのが少しずつ上げられるようになってきた。後ろにも手を回せる範囲が広がってきた。

◇9~14回目◇
まだ若干動かすとこわさがあるが日常生活ではほとんど気にならない程度まで回復。

 

50代 男性

日常的にゴルフに行ったり、ジョギングしたりと体は動かしていた。
ある時ゴルフのスイング中に右からの痛みを感じるようになってそれからというのも日常的に痛みを感じるようになって、上のものを取ろうとしたりするときなど腕上げる動作で痛みを感じるようになり、お風呂でも頭を洗う際には右手をほとんど使えない状態に。

整形外科で肩関節周囲炎いわゆる五十肩と診断。眠れないほど痛みが強い日もあったため注射を打ってもらったり、痛み止めの頓服薬でなんとか過ごしていた。

タイミもだいぶ治まってきて整形外科でリハビリをしていたが、そこでは鍼治療をやっていなかったため、当院で鍼治療を受けたいということでご来院されました。

 

経過

主に右上横向きで肩周りに鍼をさして電気を流す『鍼通電治療』を中心に施術を行っていきました。

三角筋の筋緊張や内側の腱板付近の筋緊張にアプローチしていき筋緊張の緩和や鎮痛効果の鍼灸施術を行い、肩甲骨周りの柔軟性を高めるストレッチも合わせて行うことでさらに右肩の可動域を上げていきます。

整形外科のリハビリとも並行して通院していただき日常的にも痛みの出ない範囲でアイロン体操などの肩周りの運動なども行っていただきました。

痛みが強く出ていたせいか筋肉の拘縮もつよく3ヶ月ほど施術にかかりましたが、可動域はほぼ戻りました。ゴルフのスイングも怖さもなくできています。

 

五十肩の鍼治療

③五十肩(肩関節周囲炎)の東洋医学的考え

中医学では五十肩は体の外から邪気を受けるため発症するものと東洋医学でいう「」と「」と「」が何らかの原因で損傷して働きが弱まって発症するものと考えられています。そういった原因で肩背部付近もしくは上肢の気血が滞り、それが痛みや痺れの原因となると考えられています。

体の外からの邪気として一番五十肩が発生しやすいのは、寒く風のあたる場所にいた時などに体に悪さをする「風寒の邪気」を受けた時です。次いで湿度の高い場所にいて「湿邪」を受けた時などです。
また長い間重いものを背負っていた時や長い間腕を上げながら作業していた時などに気血は滞り、それが肩背部付近であった場合に五十肩を発症する可能性が高くなります。

東洋医学でいう「肝」は血を貯蔵して必要に応じて供給・消費する作用や自律神経系の作用を通じて血管を収縮あるいは弛緩させて、体内各部の血液量を調節する作用があります。「腎」は人体の生命活動の基礎となる物質を貯蔵しており、「脾」は筋肉や軟部組織に栄養を供給しています。「肝」・「腎」・「脾」のそれらの機能が弱ると全身的に血や体液が不足し、筋肉や骨などの様々な器官に栄養を送ることができず、さらに上記のような条件が加わることで五十肩がおこりやすくなります。

 

 

④五十肩(肩関節周囲炎)とは?

いわゆる五十肩といわれるものは、50代を中心として40代後半から60代前半にかけて発症する肩の痛み運動制限を主とする疾患です。五十肩は、原因に関していろいろな諸説があり、一種の症候群とみられています。より医学的な名称としては、「肩関節周囲炎」といいます。

五十肩は、40代後半から60代にかけて徐々に発病する肩周囲の疼痛運動制限です。疼痛は、寒冷によって増悪し、また、夜間に強くなる傾向があります。最初は、肩関節付近に鈍痛が起こり、上腕の可動域の制限が起こります。次第に痛みは鋭いものとなり、急に腕を動かす場合などに激痛が走るようになります。腕を上まで上げられなくなったり、後ろへほとんど動かせないような運動障害が起こります。

重症になると生活にも支障をきたすようになり、洗髪や髪をとかす、歯磨き、洗濯物を干す、電車のつり革につかまるなどの行為が不自由になります。

しかし肩の局所の熱感発赤、腫脹は顕著なものはありません。もしそうした症状があって、疼痛が激しい場合には、五十肩よりも石灰沈着性腱板炎を疑います。また五十肩の場合は発症早期の段階においても関節の運動制限が認められるが、もし運動制限が認められない場合には五十肩よりも腱板断裂や上腕二頭筋長頭腱障害を疑います。

痛みは片方の肩だけの場合と一方の肩が発症してしばらく経つともう片方の肩にも発症してしまう場合とがありますが、片方の肩が発症してしまうともう一方も発症する確率が高いようです。また痛みのピーク時には肩の痛みに加えて腕全体にだるさや痺れを訴えることもあり、常に腕をさすっていないと我慢できないという方もいらっしゃいます。

五十肩の経過は主に4つの時期に分けられます。

Ⅰ.急性期
一般的に急性期は1カ月ほど続くと言われています。この時期は痛みが強く安静に寝ていても夜に痛みで目覚めることも多く、日常生活でも肩を動かすたびに痛みが走り支障をきたします。痛みの部分も限定されてここが痛いとピンポイントで示すことができます。
この時期は肩を安静に保ってなるべく負担をかけないようにして炎症が早く収まることを心がけましょう。治療でも炎症が早く収まるような施術を施していきます。仰向けで就寝するときは痛いほうの肩の下にタオルを挟んで肩を浮かすようにすると夜間痛も出にくく眠れることができます。

Ⅱ.移行期
痛みはだんだんと治まってきて局部の炎症がだいぶ取れてきた状態です。この移行期となると痛みが限局されずにぼんやりとした肩周囲の痛みへと変わっていきます。
この期もまだ肩を動かした際に痛みが出ます。移行期は2~3か月続くと言われています。この時期となると拘縮期の期間を短くさせるために肩の上げ下げ運動など無理のない範囲で動かしていくことがポイントです。治療では、痛みを抑制させる効果が期待できる鍼通電療法などを行っていきます。

Ⅲ.拘縮期
炎症が治まり、痛みはだいぶなくなるが、肩関節周囲の筋緊張が強く、肩を動せれる範囲が限定されます。この時期でも日用生活の何気ない動作、高いものを取ろうとする・ブラジャーをつける・髪を乾かすなどの動作で不自由を感じます。治療では、痛みを抑制させる施術と並行してストレッチなどの手技療法で可動域を広げていきます。

Ⅳ.終息期
肩関節の痛みと可動域制限が少しずつ解消されて治癒に向かいます。長くなると五十肩を発症して終息期を迎えるまでに1年もかかることもあると言われています。様々な時期を見極めてその時期にあった対処をして治癒までの期間をできるだけはやめることが治療のポイントとなります。

 

肩こり

 

 

⑤五十肩(肩関節周囲炎)の原因

従来は腱板損傷や石灰性腱炎なども含めて五十肩と呼んでいたが、近年では原因の明らかな疾患は五十肩に含めません。よって次の条件を満たすものを五十肩と呼びます。

I. 肩に疼痛と運動制限がある
II. 患者の年齢が40歳以降である。
III. 明らかな原因が無い。

年齢的要素は大切なポイントです。また明らかな外傷などの原因がなく、疼痛と関節運動の制限があれば五十肩を疑います。関節の運動制限が「帯を結ぶ」動作や「髪を結う」動作で著しく、そういった動作はすなわち肩を横に上げながら腕を内や外に捻るという動作の組み合わせです。

また炎症が長期化した場合に筋収縮は持続的になります。交感神経系の活動も高まって筋肉内の微小血管も収縮して、筋は虚血状態になります。筋肉乳酸が蓄積し、発痛物質が産生され、これらのために筋肉自体の痛みが原因となり、痛みの増悪により関節の運動が制限されます。そして肩の筋肉のみならず関節包などの周囲組織までも影響を与えます。

 

肩の疼痛症状で肩関節周囲炎の他によく見られる代表的な疾患としまして石灰沈着性腱板炎化膿性関節炎などがあります。その中で40~50代の女性に好発するのが石灰沈着性腱板炎で当院にも多くの患者さんがご来院されています。石灰沈着性腱板炎は石灰が腱板周囲に沈着してしまうことによって、激痛が伴います。症状がひどい場合は、夜間痛で夜もまともに眠ることが出来ません。また可動域制限も顕著で少し腕を上げようとしたり腕を伸ばして物を取ろうとする動作などをすると激痛が走り、腕を動かすことがこわくなり、さらに筋肉が硬くなっていきます。石灰沈着は棘上筋腱での発症が多く、石灰沈着が大きい場合は、注射器による石灰の吸収やステロイド薬での鎮痛が必要となってきます。

石灰沈着性腱板炎の場合、一度病院で注射などの処置を受けた後に鍼灸治療をお勧めする場合もあります。石灰がある程度吸引されてから鍼灸治療で鎮痛効果や炎症を早く治める施術をしていくと効果的です。またある程度痛みが軽減されてきたら、可動域を徐々に広げていく施術なども行っていきます。

執筆者

清水大地

眼精疲労専門の鍼灸師

資格
はり師
きゅう師

2008年 鈴鹿医療科学大学鍼灸学部 卒業
卒業後2年間北京中医薬大学に留学。日中友好医院にて多くの臨床経験を積む

2011年 おおうち総合鍼灸院に勤務。眼科鍼灸の確立

2014年 中目黒にて東京α鍼灸整骨院を開院

2016年 渋谷α鍼灸整骨院を開院

2018年 三軒茶屋α鍼灸院を開院

 


Posted by 中目黒の鍼灸院 東京α鍼灸院|眼精疲労 at 12:15 / 院長コラム 五十肩(肩関節周囲炎)のはり灸治療 への6件のコメント

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